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掌編/激流 〜そのとき、彼等は隼となった〜

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2017.3.7 私小説

どうも、シバク・ドワレです。

掌編ー激流ー

玉虫色に表面をコーティングされた非球面レンズが、そのクリスタルな透明感を余すところなく利用して、彩り豊かに蒼い空と白き綿雲を映し出している。重厚なボディに装着されたグレーの鏡筒は、まるで市街戦で敵を狙う迫撃砲のように妖しく存在感を放ちながら、僕の両手でその時を待ち構える。

それが町の人々を表情豊かに捉えるスナップ撮影なら、僕は迷わず軽量ボディに単レンズを選択するだろう。しかし、今日のターゲットは所属する企業名入りのユニフォームも誇らしげに、タスキをかけて街道を駆け抜けて行くトップアスリートなのだ。

彼等の豹のような動きを切り取るために、僕はベストな機材をセレクトして現場に臨んだ。

 

スタートを5分後に控え、町の有志による和太鼓のリズミカルな響きが温泉街にこだまする。ロングのベンチウォーマーを脱ぎ捨てて予備メンバーに手渡し、ストレッチする選手、いや戦士たち。若干の無駄もない均整のとれた肉体から、湯気がほのかに立ち上がり、その二の腕を震わせて手首や足首を回している。

やがて太鼓の音も止まり、戦士たちは腕にはめた時計のストップウォッチを調整し始めた。高鳴る緊張感に、場が静まり返る。そして大会委員長の紺色ブレザーの腕が上がり、ピストルの悲鳴がロープの外に列をなす声援の子供達を驚かすと、アスリートは一斉に飛び出して行った。

 

スタート地点の斜め前に陣取った僕。蛍光グリーン地に黒字で「報道」とペイントされたビブスを着た者のみの聖域だ。この地点では逆光のため、もう一台のボディに準広角を装着して、クリップオンストロボを発光させて選手達の覚醒された興奮の表情を明るく照らし出す。Nikonお得意の高速シャッター対応、FP発光のおかげで被写体ブレは起こらない。直近のアスリートの動きを止めるには、最低でも1/800のシャッターが必要だ。

 

観客たちが力の限り震わせる日章旗と大会旗に見送られ、最後尾の選手も直ぐに見えなくなった。

 

町おこし

ここはいにしえからの美人の湯で有名な、とある山奥の温泉地。来るべき全国駅伝への出場権を懸けての選手権大会である。その本戦ガイドブックの巻頭を飾るべく、僕は毎年取材に訪れていた。

朝の9時にスタートの号砲が鳴り、その撮影をするためには1時間前にはスタンバイしなければならない。有名な大規模温泉地ではあるものの、その旅館街は全て一年前から参加企業関係者や大会役員に押さえられている。

自宅からは高速道を使用しても、四時間はかかる。事故や行楽渋滞も懸念せねばならず、深夜に出発するのは躊躇われた。

ならばどうするか?車中泊である。前日の業務を終えた後、ゆったりとした気分でハンドルを握り、開催場所最寄の道の駅には未明に到着。軽くアルコールを楽しむ余裕もできる。

こうして毎年、朝の報道受付には一番乗りを果たして、最前部の特等席から取材していた。

 

一斉に野に放たれた俊足ランナーたち。メーンターゲットは本戦での常連、数チームの限られた面々だ。あらかじめ通過地点が判るのでその区間を狙えば良いのだが、問題は選手通過前後の区間閉塞である。時速20km/h以上で駆けるアスリートに対抗するには、自動車の力を借りずにはとても追いかける事はできない。しかし山奥の事、国道以外に都合の良い抜け道はそうそう存在しない。

このため、初年度には念密にロケハンを行なったものだが、数回訪れるようになるとポイントは熟知しているので先回りも容易い。この日ばかりは路肩の空きスペースに車を停め置いても、報道腕章が免罪符となってくれる。

 

獲物が通過する前にベストポジションを確保して、彼を待ち構える。スタート地とは違い、疎らな観衆の声援が密やかに聞こえてくる。やがてファインダーには緑のタスキをたなびかせながら、ショートパンツから露わになったカモシカのような躍動的な脚が見えてくる。

聴こえるのは、アスリートの軽やかな足音と、己れの鼓動のみ。

選手は、自分と戦っている。

僕も、闘う。

シュタタタタ、とNikon一桁機の連射音が辺りを引き裂き、ファインダーからはみ出した獲物が目前を通過する。

これは、ヒトでは無い。

獣が狩をする時の走り。いや、鳥の飛翔だろうか。

 

モニタでターゲットの表情を確認するや否や、直ぐに次々とやってくる選手達を撮影して、短い昼食休憩のため愛車のベッドに身体を横たえた。

後は折り返し地点へと急ぐ下位選手を撮影し、残すはゴールでトップランナーを押さえるのみ。タイミング的には簡単ではあるが、ゴールテープの体への巻きつき具合と苦悶の表情を如何にシンクロさせるかが、こちらの勝負所。

一秒間に8回ほどのシャッターをフル回転させて、今年も無事に投了。勝利監督のインタビューと撮影も済ませると、後はデータを転送して漸く一段落。夕闇迫る前に、渋滞を回避するべく観光客よりいち早く現場を後にした。

 

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