愛の掌編 片側の雪/私小説 〜 一緒ならかなり楽しい〜
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2018.1.13 私小説
どうも、シバク・ドワレです。
-片側の雪-
「あ」
「ん?」
「玉子買うの忘れた」
玉子を買いに行ったのに。
よくあることだよね。
スーパーへ行くと、オバさんにぶつかられるのが嫌で、ボクの後ろに隠れるキミ。
内緒で大好きな魚肉ソーセージをカゴに入れて、ボクに叱られそうだから戻すところを見つかって、そんなものくらい買ってやるのに、と結局叱られるキミ。
耳あてから流れ出た長い髪が鼻をくすぐり、くしゃみが出そうで出ずに、目をショボショボさせるキミ。
キミと買い物に行くと、スーパーマーケットがテーマパークへと変貌を遂げる。
キミが入院2日目の朝、窓から外を見やると、古ぼけた街並みに屹立する黒い瓦たちの西側にだけ雪が残っていたよね。
もう、東側は朝陽が反射して妖しく輝いていたね。
「雪積もってるで」
それまで、昨日の検査で疲れ果ててぐったりと寝ていたキミは、目を輝かせながら飛び起きたね。
点滴台を移動させるのももどかしく、窓から青空と残雪とのコントラストを束の間楽しんだキミ。
「キレイなあ」
「こんな霜みたいなのやなくて、どっさり積もってるのをいくらでも見せに行ったるで」
「そんな寒いとこイヤや」
でも、行けば大はしゃぎで雪兎を作るよね。
あれは久留米だったかな、広めの家族湯に浸かったのは。
いつも女風呂に独りで向かうときは不安いっぱいで、せっかくの名湯でも二回に一回はボクだけ入ってキミは車内のベッドで寛いでいるよね。
「奮発して家族湯に入ろか」
「ウンウン、嬉しい」
「背中流して」
「大きいからしんどい」
内湯で長湯するのはてんかんに良くないから、露天風呂を一緒に楽しんだね。
持病が多くあると、日常の生活にも苦労するよね。
だけど、あまり愚痴を言わないキミ。
幼い頃から家族に邪魔者扱いされて、病気の辛さを口に出せなくなったんだよね。
もう、我慢しなくて良いんだよ。
ボクだって、病気は辛いさ。
でも、男だからね、黙って耐えてるのは。
出来るだけ一緒に風呂に入り、一緒に寝て、一緒に飲もうね。
キミは紅茶だけど。
今日、キミが帰ってくる。
キミの笑顔が帰ってくる。
たった四日間だったけど、一日千秋の生活だったよ。
でも、キミはこれをもっともっと長く耐えてるんだよね。
キミの強さはそんなところじゃないかな。
ボクが帰った後、キミはいじめられたね。
大声で人を罵倒したり、上から笑って小馬鹿にするなんて、負け犬の遠吠えだよ。
そんなオバさん、ボクがやっつけてやる。
実際、そのナースにはボクがたっぷりと説法したからキミは落ち着いて寝られたんだよね。
退院したら一緒だよ
もう、怖がらなくてもいいんだよ。
ボクがいるからね。
キミを残して逝ったりしないさ。
ボクは妖怪とも閻魔様とも、野獣とも仲が良いから、いつもお願いしてるのさ。
「どうか、あの子を残さなくて済むように、共に立てなくなるまでは頑張らせてください」
とね。
キミがいるから、ここまでこれたんだよ。
これからも精一杯頑張るさ。
そんな頑張りくらいでへばっちゃうほどボクのメンタルは弱くないってこと、キミがいちばん良く知ってるよね。
キミが帰ってくる。
キミがボクを見つけて手を振りながら帰ってくる。
掃除機をかけなくっちゃ。
皿はいつも食べたら直ぐに洗ったよ。
洗濯はしてないや。
独りだと、あまり増えないからね。
明日からは、一緒に洗濯物増やそうね。
2018.1.13
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